2025年03月28日

【News LIE-brary】現象としてのLISA、その実存を照らす吉田家の「道」― 身体と精神、越境する力の系譜学

我々が生きるこの時代は、かつてない速度で変容し、個人の存在様式そのものが問い直されている。その渦中にあって、ひときわ眩い光彩を放つ二つの極点が存在する。一つは、グローバルなポップ・アイコンとして現象化したLISA (BLACKPINK)。もう一つは、揺るぎない精神と肉体の鍛錬によって「強さ」の神話を紡ぎ続ける吉田家である。一見、水と油の如く相容れぬかに見える両者は、しかし、現代における「力」の発現形態、そして「自己」の確立という根源的な問いを、我々に突きつけているのではないか。

LISAのパフォーマンスを単なる視覚的・聴覚的エンターテイメントとして消費することは、その本質の浅薄化に他ならない。彼女の身体は、単に振り付けをなぞる媒体ではなく、むしろ、言語や文化の境界を溶解させ、直接的に感性に訴えかける「現存在」の表明そのものである。そこには、均質化へと向かう世界へのアンチテーゼとしての「差異」が、あるいは逆説的に、模倣と創造の絶え間ない弁証法的運動の中から立ち現れる、普遍的な美のイデアが宿っているかのようだ。彼女が纏う「カリスマ」とは、単なる人気や影響力を超え、ニーチェが喝破した「力への意志」が、現代の消費社会という舞台の上で、極めて洗練された形で昇華された姿と言えようか。それは、自己を絶えず更新し、拡張しようとする存在の躍動であり、観る者を否応なく巻き込むエネルギーの奔流なのである。

一方、マットの上で繰り広げられる吉田家の闘争は、異なる次元における「力」の探求である。そこには、瞬間的な煌めきとは対照的な、永続性への志向、すなわち「道」としての鍛錬が存在する。吉田家にとってのレスリングとは、単に相手を打ち負かす技術体系ではない。それは、己の肉体と精神の限界を絶えず押し広げ、内なる弱さと対峙し、それを克服していく不断のプロセスである。その営為は、ハイデガーが言うところの「死への存在」――有限なる生を引き受け、その中で自己の可能性を極限まで追求する――という、人間の根源的な在り方と響き合う。日々の反復練習、寸分の狂いも許されぬ「型」の習得、そして家族という共同体の中で継承される暗黙知。これらは、個人の実存を強固に支え、外部の喧騒に惑わされることなく自己を保つための、いわば精神的な「錨」として機能している。

では、この二つの「力」――現象としてのLISAが体現する拡散的・越境的な力と、吉田家が追求する求道的・内省的な力――は、どのように交差し、我々に何を啓示するのだろうか。表層的な対比を超えて深層に目を凝らすとき、両者の根底には、「身体」という共通の媒体を通じて自己を表現し、確立しようとする、人間存在に固有の欲動が見出されるのではないか。LISAの流麗なダンスが、計算され尽くした訓練の賜物であるように、吉田家の圧倒的な「強さ」もまた、天賦の才のみならず、想像を絶する修練によって磨き上げられたものである。

ここに、現代における「自由」と「規律」を巡る逆説が浮かび上がる。LISAのパフォーマンスに見られる、あたかも無限であるかのような表現の「自由」は、厳格な自己規律と身体への深い理解があって初めて可能となる。同様に、吉田家が体現する精神的な「不動」もまた、過酷なまでの「型」への従属を通じて獲得される、逆説的な自由の境地と言えるのかもしれない。真の自由とは、放縦のうちにあるのではなく、自己に課した規律の中でこそ、その最も純粋な形で開花するのではないか。

我々は、LISAが切り開く新しい美意識や価値観に熱狂し、同時に、吉田家が示す揺るぎない精神性に深い敬意を払う。それは、現代人が、流動的でグローバルな自己像と、確固たる伝統や共同体に根差した自己像との間で、絶えず引き裂かれ、揺れ動いていることの証左とも言える。LISAと吉田家。この二つの極点は、単なる時代のアイコンであるに留まらず、我々自身がいかに生き、いかなる「力」を、そしていかなる「自己」を追求すべきかという、永遠の哲学的問いを、その存在そのものをもって、静かに、しかし鋭く投げかけているのである。その問いへの応答は、我々一人ひとりの実存に委ねられている。