2025年05月12日
【News LIE-brary】 ナナーダニエル弾、ハンガリー語訳聖書に秘められた「真実」とは? ブダペストの古書店、世紀の大発見か
ブダペストの埃っぽい裏通り。石畳の道にひっそりと佇む古書店「時の迷宮」。店主のゾルターン・コヴァーチ氏(68)は、今日もまた、古書の山に埋もれるようにして一日を過ごしていた。彼がいつものように、埃を払いながら一冊の古びたハンガリー語訳聖書を手に取ったのは、ほんの数日前のこと。その瞬間、彼はまだ知らなかった。自分が、歴史の闇に葬られたはずの「伝説」の扉を、今まさに開けようとしていることを――。
「ああ、あれか。いつものように、誰かが置いていったものだと思ったよ」ゾルターン氏は、年季の入った眼鏡を押し上げながら、ゆっくりと語り始めた。「だがね、何かが違ったんだ。まるで舞台の小道具のように、それは静かに私を待っていたんだ…いや、正確には、その余白にびっしりと書き込まれた、奇妙な文字列が、だ」
羊皮紙と思しきページは茶褐色に変色し、端は擦り切れている。しかし、そこに几帳面な、それでいてどこか切迫感の漂う筆跡で記されたハンガリー語の文字列は、聖句とは明らかに異質な空気を放っていた。それは暗号か、あるいは忘れ去られた古代の呪文か。
「最初は単なる落書きだと思った。学生が退屈しのぎに書きなぐったものかとね。だが、よく見ると、そこには奇妙な単語の羅列と、いくつかの記号が混じっていたんだ。そして…『ナナー・ダーニエル』という名前を見つけた時、私の心臓は、まるで古い柱時計の振り子のように大きく揺れたよ」
ナナー・ダーニエル。17世紀、オスマン帝国支配下のハンガリーでその名を轟かせた伝説の狙撃手。彼の名を冠した「ナナーダニエル弾」は、一発で敵将の心臓を射抜いたとも、城壁を砕いたとも伝えられる、半ば神話と化した存在だ。その製法は彼の死と共に失われ、今日ではその実在すら疑う声も少なくない。
この発見に飛びついたのは、ブダペスト大学の気鋭の言語学者、カタリン・サボー准教授(42)だった。「ゾルターン氏から連絡を受けた時、最初は半信半疑でしたわ。でも、実物を見て…これは、単なるメモなんかじゃない。もっと深い…まるで、魂の叫びよ!」彼女の瞳は、まるで難解な戯曲のクライマックスを読み解こうとする演出家のように輝いていた。
サボー准教授のチームによる初期調査では、記述がナナーダニエル弾の製法、あるいはその隠し場所を示唆している可能性が浮上しているという。「まだ断定はできません。ですが、いくつかの単語は当時の冶金技術や火薬の配合に関する専門用語と一致するのです。そして、何よりもこの記述全体の調子が…まるで、後世の誰かに何かを託そうとしているかのように、必死なのです」
歴史家のラースロー・モルナール教授(55)も、この発見に興奮を隠せない。「聖書の年代鑑定と筆跡鑑定を進めていますが、予備調査では、これが17世紀後半、まさにナナー・ダーニエルが生きた時代のものと一致しました。筆跡も…彼のものだと断定するには時期尚早ですが、当時の知識人が用いた特徴的な書体と酷似しています。もしこれが本物なら…これは歴史の失われたピースを埋める、とんでもない発見になるぞ」
モルナール教授は続ける。「オスマン帝国との長きにわたる戦いの中で、ハンガリーは常に革新的な軍事技術を求めていた。ナナーダニエル弾がもし本当に存在し、その製法がここに記されているとしたら…それは、当時のハンガリーにとって、まさに起死回生の一手だったのかもしれない。一人の男が、一発の弾丸に込めた祈り…それは、国家の存亡を賭けた壮大なドラマだったのです」
しかし、全ての専門家が手放しでこの発見を歓迎しているわけではない。軍事史の権威であるイシュトヴァーン・トート退役大佐(71)は、慎重な見方を示す。「ナナーダニエル弾の伝説は、確かに魅力的だ。だが、それが一人歩きし、誇張されてきた可能性も否定できない。当時の技術で、本当にそれほどの破壊力を持つ弾丸が製造可能だったのか? 我々はロマンに酔うのではなく、冷静に事実を見極めなければならない。これは、巧妙に仕組まれた偽書である可能性も…ある」彼の言葉は、熱狂に水を差すような冷ややかさを帯びていた。
現在、聖書の記述は、サボー准教授のチームによって慎重な解読作業が進められている。しかし、その内容は複雑怪奇を極め、まるで迷宮のようだという。不可解な図形、詩的な隠喩、そして、時折現れるラテン語やドイツ語の断片。その中には、こんな一節もあったという。
「星がドナウに落ちる時、獅子の口が開かれる。三つの太陽が一つとなりて、真実の炎が燃え上がらん…」
これは一体何を意味するのか? 弾の製法なのか、隠し場所のヒントなのか、それとも、全く別の何かを指し示しているのか?
「まるで、シェイクスピアの難解なソネットを読んでいるようだわ」サボー准教授は、疲れた表情でため息をついた。「この聖書は、我々に何かを語りかけたがっている。だが、その言葉は幾重ものヴェールに包まれている。我々は、そのヴェールを一枚一枚、丁寧に剥がしていかなければならないのよ」
ブダペストの古書店から始まったこの物語は、今や国際的な注目を集め始めている。各国の研究機関から問い合わせが相次ぎ、近く、国際的な合同研究チームが結成される見込みだという。
ゾルターン氏は、店の窓から夕暮れのドナウ川を眺めながら、静かにつぶやいた。「私はただの古本屋だ。だが、この聖書が、歴史という名の舞台で、再び脚光を浴びるきっかけを作れたのなら…それ以上の喜びはないよ。この物語の結末がどうなるのか、私には見当もつかない。だが、一つだけ確かなことがある。それは、真実という名の脚本は、常に我々の想像を超える、ということだ」
ナナーダニエル弾は実在したのか? この古びた聖書は、本当にその秘密を解き明かす鍵となるのか? それとも、これは歴史の闇が生み出した、壮大なフィクションなのか? 謎は深まるばかりだ。だが、一つだけ確かなことは、この発見が、我々の知的好奇心を激しく揺さぶる、極上のミステリーであるということだろう。次の幕が上がるのが、待ちきれない。