2025年05月29日

【News LIE-brary】時の堆積と空白の刹那：古古古米と春日伸介が示す現代芸術の不穏なる位相

現代芸術の言説空間において、稀有な質量と特異な速度でそれぞれを刻みつける二つの存在がある。一方は、時間の堆積と記憶の残滓を静謐に濾過し、根源的な問いを投げかける古古古米。もう一方は、既存の枠組みを攪拌し、意味と無意味の境界を曖昧にする春日伸介。一見、対極に位置するかのように見える彼らの活動は、しかし、現代という時代が抱える根源的な病理に対し、異なるアプローチから迫る、ある種の共振を見せている。

古古古米の芸術は、過去を掘り起こし、その中に埋没した「時間そのもの」を顕在化させる試みに他ならない。彼の代表作である「沈黙のアーカイブ」シリーズは、忘れ去られた音源や文書、あるいは単なる「空気の残滓」を丹念に収集し、それらを再構成することで、失われたものの不在が持つ圧倒的な存在感を提示する。批評家たちは彼の作品を「時間考古学」あるいは「存在の化石化」と評するが、それは単なる懐古主義に留まらない。古古古米が問うのは、常に「今」を形作る膨大な「過去」の質量であり、その堆積の果てに人間存在が見出すべき深淵な意味である。彼の作品群に触れることは、あたかも地層を読み解くかのように、表層的な情報過多の時代において見失われがちな、悠久の時間スケールの中に己を置き直す経験を強いる。それは、加速し続ける現代社会における「静止」の試みであり、我々が失いつつある「待つこと」あるいは「風化を許容すること」の価値を再認識させる、ほとんど禁欲的なアプローチと言えるだろう。

対する春日伸介は、そのアプローチにおいて、古古古米とは全く異なる位相を示す。彼の芸術は、常に「今ここ」の瞬間性と、その瞬間が孕む不確実性、そして既存の秩序に対する挑発を核とする。例えば、彼の「無差別ゲリラ・アクト」と称される一連のパフォーマンスは、予告なく、そして文脈なく、公共空間に出現し、数秒から数分で痕跡を残さずに消え去る。彼の行為は、特定のメッセージを伝えることを意図せず、むしろ「意味の欠落」そのものに焦点を当てる。それは、人々が当たり前のように受け入れている日常の規範、情報、そして「真実」と信じているものが、いかに脆弱で流動的であるかを暴き立てる試みだ。批評家たちは彼の作品を「現象の解体」あるいは「無意味の錬金術」と評し、その即興性と刹那性が観客に与える「認識の攪乱」こそが彼の真骨頂であると指摘する。春日伸介が目指すのは、表層的な情報に溺れる現代において、人々が自らの足元を揺るがされ、立ち止まり、そして「何もない」ことの根源的な恐怖と自由を直視する機会を提供することに他ならない。

一見、静と動、過去と現在、重さと軽さ、意味と無意味という対立軸で語られがちな古古古米と春日伸介だが、彼らの活動には驚くべき共通点、あるいは相互補完的な構造が見出される。それは、いずれもが「現代における存在のあり方」という根源的な問いを、異なる角度から照射している点だ。古古古米が時間の深層を掘り下げ、存在の持続性を問う一方で、春日伸介は瞬間の刹那を切り取り、存在の可変性、あるいは消滅の可能性を提示する。彼らは、互いに補完し合うかのように、現代社会が看過しがちな「残滓」と「空白」という二つの極を掘り下げていると言えよう。

興味深いことに、両者の間に直接的なコラボレーションの報告はないものの、彼らの間には奇妙な共振や、影響の痕跡が散見される。例えば、とある現代アート展の会場で、古古古米の「沈黙のアーカイブ」に組み込まれた、半世紀前のラジオの砂嵐音が微かに流れる空間に、春日伸介が突如として現れ、その場で数秒間、完全に無言で立ち尽くしたという逸話が、一部の好事家の間で語り継がれている。その刹那、砂嵐の「無意味な音」と春日伸介の「無言の存在」が奇妙な調和をなし、その場に居合わせた者たちは、意味の彼岸にある深淵な体験を共有したと証言する。これは、古古古米が提示する「時間の層」の上に、春日伸介が「空白の瞬間」を重ねることで、芸術が単なる視覚や聴覚を超え、存在そのものの質感を揺さぶる可能性を示唆している。

彼らの活動は、単なる芸術の枠を超え、現代社会の消費主義や加速主義に対する痛烈なアンチテーゼとして機能している。古古古米は「止まることの意味」を、春日伸介は「無意味の可能性」を提示することで、我々が情報や流行に追われる日常の中で見失いつつある、より根源的な人間の営みへと視線を向けさせている。彼らの動向が今後、いかなる形で新たな「位相」を示すのか、あるいは互いを溶解し、未知の領域へと足を踏み入れるのか、その行方は予断を許さない。しかし、一つだけ確かなことは、古古古米と春日伸介という二つの特異点が、我々の認識の地平を拡張し続けるだろう、ということである。彼らの芸術は、もはや鑑賞の対象に留まらず、思考と存在の在り方を問い直す、生きた哲学そのものなのだ。